「ねえ、寧子」
  『ん? どうしたのあかり。みんなのプロフィールなんて並べちゃって』
「雑誌からの依頼でね。特集組むから所属生を紹介してほしいんだって」
  『へえー、特集! ついこないだまでシロートだったのに、なんだか感動しちゃうね』
「いやあ、まだまだよ。他の事務所ひっくるめての新人声優特集だもの。本当はちゃんと一人一人がページもらって――なんなら付録でまるまる使ってもらえるくらいにならないと」
  『さすがシャチョーは手厳しいねえ。あたしとディレクターで書こうか? あかり、明日収録でしょ』
「ううん、いいの。これは私が自分で書きたくて。でね、寧子。書いている間、少し付き合ってほしくて――」

× × ×

【新瑞 なお/あらたま なお】

「ビックリよねえ。久しぶりに飲んだと思ったら、いきなり子どもを預かってくれ!なんて言われてさ」
  『あかり、親御さんと事務所の同期なんだっけ? でも、あたしは知らなかったなあ』
「寧子は会っていないかもね、養成所を出てすぐに辞めちゃったから。舞台で観たことはあったけど、まさか娘が声優志望だなんて思わなかったわ」
  『親離れしたい年頃なのかもね。他所の台本を演じるのが楽しいってずっと言ってるよ』
「ふふ、新瑞さんが父親と一番違う所はそこかもね。いろんな自分を与えてもらえるのが声優の醍醐味だもの」

 

【小見川 薫/おみがわ かおる】

  『美聡ちゃんの紹介だから悪い子ではない、とはわかってたけど……意表を突かれたね』
「そう? 私は小見川さんの気持ちわかるけどな。声優を志した理由も」
  『ああ、あかりも昔ちっさかったもんねえ。回ってくるオーディションも似たようなキャラばっかで』
「見かけを払拭するためには、見かけによらない技術と想いが必要で――小見川さんは、ちゃんと最初からわかっていたから」
  『一度舞台も経験させてあげたいよね。今の薫ちゃんなら、きっと納得できる演技をするんじゃないかな』

 

【椛坂 冬華/かぶさか とうか】

「面談の時に聞いた一回裏切ってしまったけど――って言葉、ずっと頭に残ってる」
  『挫折とか、つらかったことの記憶や経験って残りがちだけど……』
「私もたぶん、今でもずっと言い訳し続けているから。前の事務所で慕ってくれた人のぶんまで、今の仕事を全力でお返ししようって」
  『そうだね。気にしすぎるのはダメだけど、忘れちゃうのもきっと違う。全部まとめて今や未来に活かすことが大事なんだよ』
「ええ。夢を作り直すことは悪いことじゃないって椛坂さんにもわかってもらえたら……でも、もうみんなに教えてもらったのかな」

 

【神崎 千里/かんざき せんり】

「声優にしようって言い出したのはディレクター?」
  『そう。でも、あたしも声優向きだとは思ってたよ。そのうちオーディション――と思ってたけど、先越されちゃったね』
「監督や音響会社から、受付してるあの子出さないの? って言われていたのよ。なるべくしてなった、ってところね」
  『普通の事務所じゃ有り得ないけどね。でも、よかったんでしょ?』
「ええ。だって私は、神崎さんのような子と一緒に――普通に働けるような場所を作りたかったんだから」


【五条 咲/ごじょう さき】

「寧子が五条さんを連れてきた時、当てつけかと思ったのよ。今時の中学生はこんなにしっかりしているんだって」
  『え? あー、中学の頃のあかりって全然喋れなかったもんね。声も小さくてねえ、つくしちゃんよりも』
「ほらやっぱり! まあ、彼女を見ていると気が引き締まって反省できるからいいわよね。五条さんって風紀委員なんだっけ? わかる気がするわ」
  『なんかディレクターと特訓してるみたいだし、そろそろ少年声のサンプル録ってあげようかなーって』
「いいと思う。もう今はただのワガママじゃなくて、ちゃんと声にできていると思うから」


【桜 美聡/さくら みさと】

「ファンクラブの宛先を変えたらすぐに手紙が届いて――たぶん、ずっと相談したかったのね。なんでメッセも何も教えていなかったんだろう」
  『似た者同士だよねえキミら。でもあかり、最初反対してたじゃん? 自分でアースタの特待生に選んだのに』
「それは、だって大手にいた方が設備も研修も――ううん。たぶん後ろめたかっただけね。一度手放したのに、追いかけてきた桜さんだけ受け入れるなんて都合のいい――」
  『はいはい。で? それって、今の美聡ちゃん見ても同じこと思うの?』
「……ううん。だって、桜さんはちゃんと自分の足で走り出してくれたから」


【白川 琴音/しらかわ ことね】

  『琴音ちゃんみたいな子を発掘できるなんて、いやあ参加してみるもんだね学園祭! 今年はどこ行く? リモートなら数こなせるし!』
「あのね……でも白川さんが来てくれて本当によかったわ。やっぱり大人がいると、いざという時に任せられることが多くて」
  『飲みにも誘えるもんね。今は自粛中だけど! でさ、あかりは琴音ちゃんの方針ってどう考えてる? 歌う声優の先輩として』
「得意分野以外も演ってみるといいわ。それこそ、コテコテのキャラソン案件とか挑戦してみるといいかも」
  『おお……琴音ちゃんのコテコテ……確かに趣深い……』


【神宮 凜々花/じんぐう りりか】

  『こんな子どこに眠ってたんだろうね? これこそ新興零細事務所の醍醐味、一般応募からの逸材発掘!』
「神宮さんを見ていると思うんだけど、寧子そっくりよね……特に昔の。だから選んだの?」
  『え、似てる? 千里ちゃんは意識したかもだけど、凜々花ちゃんはどうだろなあ。あたしはここまで突っ走れないよ』
「いや突っ走ってたわよ! 部活でも仕事でも! 裏側でちゃんと考えてて、一緒にこっちも引っ張ってくれるの……やっぱりそっくりだわ」
  『えー? まあでも、あかりがそこまで言ってくれるなら……凜々花ちゃんはこのままがいいんだろうね、きっと』


【瀬戸 ひなの/せと ひなの】

  『正直ディレクターも無茶言うなあと思ったね。声優ってどうしても人目に付く仕事じゃん? ひなのちゃんにはスパルタでしょ』
「でも結果をちゃんと出してくれたし、私はよかったと思う。ウチだったらきっと、瀬戸さんにピッタリな仕事のやり方も探せるわ」
  『まあね。有理ちゃんも言ってたけど巣立ちの場所がほしかったのかも、ひなのちゃん』
「最近は目に見えてみんなと話すようになって……笑うようになったじゃない。声優がそのきっかけになれたんだったら……私はそれだけで嬉しいわよ」
  『それが続くように――って所があたしらの腕の見せ所かな。頑張りますかあ』


【高橋 京子/たかはし きょうこ】

「高橋さん、五条さんともっと仲良くしたらいいのにね。私たちも何か手伝ってあげた方が――」
  『いやいやあかり、わかってないね! あの二人はあの関係がいいんだよ、外野のオバサンが口出すなんて無粋が過ぎる!』
「オバサンとは何よ! でも……高橋さんって私から見るとすごくてね。年下にも年上にもフラットだし、しかも自分の目標もしっかり持ってて……中学生でしょ?」
  『確かにねえ。面談でもどこか引っかかって丸付けたんだけど、あれは才能かもね。素直に育ててあげれば相当化けるよ、きっと』
「だから五条さんとだけ素直じゃなくて、すごくもったいなくて……ああ、こういう所がオバサンっぽいのかしら。もう」


【千歳 つくし/ちとせ つくし】

  『一般で応募してきたのって、つくしちゃんが最初なんだよね。家が遠いから採用は後になっちゃったけど』
「そうそう。すごく熱の入った履歴書とテープが届いて――実際会ったら、またビックリしちゃったけど」
  『いやー、あたしは懐かしかったよ。普段オドオドしてるのに好きなことの話や演技になるとハキハキ喋るって、まんま中学の頃のあかりじゃん』
「また蒸し返す! でもね、なりたいヒロインについて目を輝かせて話す千歳さんを見て――この子は大丈夫って思ったのは本当かな」
  『道を間違えたり忘れたりしないように、見守ってあげるだけでいいのかもね。あたしらが考えるよりもずっと大人だと思うよ、つくしちゃん』


【天神 茉莉/てんじん まつり】

  『あかりが絶対採るべきって推してたよね。あたしもディレクターも反対ではなかったけど』
「だっていい声してない? 話も面白いし、豊富な社会経験は演技に絶対役立つわよ」
  『うーん、茉莉ちゃんの社会は虚無に偏ってるんだよなあ……でもいいよね。他がよいこばかりだから逆に安心するというか』
「その言い方は語弊があるわよ。天神さんのような、普通で客観的な"面白い"がわかる子ってこの業界じゃ貴重だからね」
  『それは感じるね。うーんでもなあ……本人が言うほど茉莉ちゃんは"フツー"ではない気がするんだよなあ、あたしは』


【戸田 有理/とだ ゆうり】

「ディレクターが急にスカウトしてきた時は驚いたわ。最初はアイドルやミュージシャンと勘違いしているのかと思ったけど……」
  『あれだけしっかりしてりゃあね、文句も無いわ。電気街のカフェ群からどうやって見つけてきたんだろ、趣味かな?』
「自分だけじゃなくて、たくさんの仲間も連れてきてくれて――戸田さんには頭が下がるわ。お返しに、最高の声の舞台を用意してあげないと」
  『有理ちゃんが選んだ道ってトゲトゲの茨なんだよね。器用で使い勝手がいいだけで終わってほしくない、その中にある――』
「戸田さん自身の声を導く――それはきっと、私たちの仕事ね。ディレクターも……わかっているわね、きっと」


【日向 葉澄/ひなた はすみ】

「日向さんみたいな子が、ゆっくり声優を目指せるような事務所を作りたかった。……一つ夢が叶ったかな」
  『面談が終わった後も言ってたね。たしかに大手では見かけないタイプだと思うけど――』
「好きだって胸を張って主張できる子が、好きなだけ仕事ができる場所を用意してあげたかった。実力なんて後からでいいの、想いが強い子に集まってほしかった」
  『でもさ、好きなことを仕事にするっていうのも大変じゃん。逃げ道がなくなって潰れちゃって――だからこそ偉い人は厳しく言うんだろうけど』
「それはもちろん。でもね、本当は――それでも優しい声を用意するのが大人の仕事だと思う。少なくともリレプロは……そういう場所にしていきたい」


【広瀬 晶/ひろせ あきら】

  『あかり、晶ちゃんは手こずるって言ってたよね。最初から作り声じゃ通用しないって――』
「元の声が素敵だから、というのも大きいけどね。この事務所に一番足りなかったタイプだもの」
  『結局、根気強くミーティングしたディレクターと、信じ続けた琴音ちゃんの勝利だもんなあ。あたしの力不足、いやー反省しきりです!』
「ふふ。広瀬さんも自分の声が好きになれたなら……きっとどんな声でも出せるようになるわ。これからのディレクションとマネジメント、楽しみね」
  『なに、その試すような言い方! 最近ちょっとお茶会するようになったからって偉そうに! ぐぬぬ……!』


【村山 萌/むらやま もえ】

  『意外っていうと失礼だけど、思ったより人当たりいいし情熱もあって助かるよね。萌ちゃん』
「村山さんって苦手なことや嫌なことをちゃんと話してくれるじゃない? あれって難しいことなのよ、特にウチの子くらいの歳だと」
  『確かに抱え込む子多いかもねえ。そういう意味だと、萌ちゃんはまわりの刺激やお手本になってくれてるのかな』
「でも運動が本格的に必要な日も来るかもしれないから……ダンスは私も手こずったからなあ、あまり強く言えないけれど」
  『だからこそいいんじゃない? 教えてあげなよ、運動がダメでも上手に見える秘策!』

× × ×

  『これで全員、かな?』
「うん。……そういえばね、このあいだ現場で堤さんと一緒になって」
  『アースタの? 美聡ちゃんと仲いいよね、最近』
「笑ってね、リレプロのみんなには負けません!って言ってくれたの。……私、声優事務所やってるんだなあって。そんな風にライバル視してもらえるような」
  『何をいまさら。まだ始めたばっかじゃん、満足しちゃこの子たちもディレクターも可哀想だよ?』
「それはそうよ。けど、私にだってなりたい自分があるんだから。少しくらい感動しても罰は当たらないでしょ」
  『欲張りだねえ、そんな歳にもなって』
「言うわね寧子。あなたもたまには初心に戻って、かけだしの頃を思い出したらどう?」
  『えー? あたしは別に、ずっと変わってないし』
「あ、ずるい答え! 寧子に将来とか夢とか聞いても、いっつもはぐらかすんだもの」
  『そんなことないよ、前に話したじゃ――おっと、ディレクターからメッセだ。スタジオ改装の最終確認お願いします、だって! はいはいいってきまーす!』
「もう! そうやってすぐ逃げるんだから! 待って、私も行く!」

× × ×

  『あたしのやりたいこと?』
「うん」
  『なんでそんなこと気になるの?』
「だって寧子ちゃん、いつもわたしを助けてくれるし」
  『それが申し訳ないって?』
「うん」
  『……あのね、あかり。キミがそんなこと考えるなんて十年早いよ』
「え? でも」
  『はー、もう! じゃあ話すけどね。あたしはあかりにスゴくなってほしいの!』
「わたしに? でも」
  『あかりに声優を薦めたのはあたしだよ? 元を言えば演劇部に誘ったのもあたし! そうやってスゴいヤツを見出して、スゴいヤツを導いて、スゴくなってもらってさ』
「スゴ……スゴく?」
  『そうなったら、巡り巡ってあたしもスゴいでしょ? だからさ! あかりをスゴくすることが、あたしがなりたい明日なの!』
「……わたしと一緒に、寧子ちゃんもスゴく」
  『ね? だからこんなんじゃなくてさ、もっとスゴい未来へ進もうって――わかった?』
「ミライへ……う、うん! わかった!」
  『よろしい! さ、台本読み直すよ。ウィスパーでやってみて、もっと極端にそーっと!』
「う、うん……あ、あのね、寧子ちゃん――」

× × ×

「――ありがとう、寧子」
  『ん? あかり、何か言った?』
「ううん、何も」
  『そう? まーいいや。さてさて、どんな感じになったかなーと』

  『おつかれー、ディレクター!』
「いつも立ち会わせてごめんね。出来栄えはどう?」

     「――」